Partner FEST2015 で講演を行い、独自のクラウド サービス「Wapli」への取り組みと、2015 年 2 月にスタートした Microsoft Office 365 & Microsoft Azure ベースのクラウド サービス「Wapli mirai」の紹介を行った渡敬情報システム株式会社 (以下、渡敬情報システム) 。秋田県と首都圏を中心に、中小企業向けにパッケージ ソフトの販売を行ってきた同社のクラウド シフトは、今後のビジネス展開を模索する多くの IT 企業にとって、参考になるものだと言えます。
そこで今回は、渡敬情報システムの常務取締役である藤原 弘樹氏に、クラウド ビジネス開始の背景やこれまでの取り組み、マイクロソフトのクラウド基盤へと移行した理由などについてお話をお聞きしました。
渡敬情報システム株式会社
常務取締役
藤原 弘樹氏
渡敬情報システムの概要とクラウドへの取り組み
まず御社の概要についてお教えください。
当社は、事務器販売を手掛ける株式会社渡敬のシステム部門が分離独立する形で、1991 年に設立された会社です。秋田県横手市に本社を置き、秋田県内に 3 つの支店と営業所を展開、首都圏営業のために東京都中央区にも事業所を設けています。主な事業内容は、ソフトウェアの受託開発、パッケージ ソフト販売、システム関連機器販売、システム導入/設定/保守サポートで、お客様のほとんどは中小企業です。販売地域は、秋田県中心から東北ですが、最近では首都圏にも拡大しています。2012 年 1 月には「Wapli」という独自のクラウド サービスを開始、2015 年 2 月には、Office 365 と Azure をベースにした新クラウド サービス「Wapli mirai」をスタートしています。
なぜクラウド サービスを始められたのでしょうか。
私どもは主に、SI 事業を手掛けていますが、ビジネス的にはパッケージ ソフトの仕入販売の比率が大きいです。しかし当時、パッケージ ソフト メーカーがクラウド サービスを始める動きが始まり、このままでは収益が減っていくと予測されました。クラウド サービスをお客様に紹介するビジネスでは、数 % 程度の紹介料しか入らなくなるからです。この程度の収益では、地元のお客様がご満足するレベルのサポートを十分に行うことができません。そこでサポート力を維持できる収益を確保するため、自らクラウド サービスを手掛けることにしたのです。
Wapli にはどのような特長がありますか。
これまでオンプレミスで動かしていた各種パッケージ ソフトや、お客様の独自アプリケーションを、そのまま動かせる点が最大の特長です。つまりオンプレミスと同じ環境を、クラウド上に持てるのです。これによって、パッケージ間やアプリケーション間の連携も、オンプレミスと同じように行えます。パッケージ メーカーのクラウドではパッケージごとに異なるクラウド サービスを契約する必要があり、パッケージ間の連携も困難ですが、中小企業のお客様の中には、会計は A 社、販売管理は B 社というように、異なるメーカーのパッケージを組み合わせているケースが少なくありません。この環境をそのままクラウド化できれば、お客様の利便性を損なうことなく、ハードウェア保守から解放されるといった、クラウドならではのメリットを享受できるようになります。
クラウド サービスの基盤をマイクロソフトへと移行した理由
Wapli mirai では Office 365 と Azure をベースにしていますが、これらを採用したのはなぜですか。
私どもが扱っているパッケージが Windows ベースであることと、マイクロソフトのクラウド基盤に将来性を感じていることが、主な理由です。また Azure には、基幹系システムを十分に動かせる高い信頼性があります。私どもは他社のパッケージ ソフトだけではなく、公益法人、社会福祉法人様向けの稟議/予算管理システムも独自で開発および提供していますが、これも Azure 上で動かしています。さらに、マイクロソフトが日本国内に 2 拠点データ センターを設置したことも、高く評価しています。私どもがマイクロソフトを検討し始めたのも、これらのデータセンターが開設された 2014 年 4 ~ 6 月ころでした。
Wapli mirai の販売は、どのように行っていますか。
自社の営業部門と、パートナーである販売代理店の 2 本柱で営業展開を行っています。パートナーの数は、東北数社、首都圏に数社といった感じです。
Wapli の既存のお客様が、Wapli mirai へと移行するケースもあるのですか。
もちろんです。Wapli の既存のお客様のうち、すでに半数は Wapli mirai へと移行しています。メールを Wapli mirai へと移行したケースも多く、Lync (Skype for Business) を活用しているお客様も、いらっしゃいます。
クラウド サービス販売のハードルと工夫
お客様のご評価はいかがですか。
オンプレミス型のシステムは、サーバーが設置された社内だけでしか利用できませんが、クラウドはさまざまな場所で利用できます。出先からでも販売管理情報などにアクセスできる点は、高く評価されています。また新規導入やサーバー リプレースのお客様では、社内へのインフラ導入のハードルが解消されたことや、BCP 対策にも効果があると喜ばれています。
クラウド サービスの販売で特に苦労されていることは。
やはり販売代理店の皆さまに納得していただくことが、最大の課題だと感じています。私どもの代理店は事務器ディーラーの会社が多いのですが、従来のビジネスは販売時の利益額を重視するといったモデルが主流です。ここから月々の利用料金で収益を上げるというストック モデルへと移行するよう説得することは、決して簡単ではありません。ビジネスの発想がまったく異なるからです。そこで私どもは、クラウドへと移行することでハードウェアのメンテナンスが不要になり、その分のワーク ロードを他の付加価値サービスへとシフトできる点を訴求しながら、販売代理店の開拓を進めています。
秋田県や東北地方ならではのニーズというものはありますか。
秋田県や東北ならではということではなく、地方に共通していることだと思いますが、車での移動に多くの時間が費やされているため、クラウドへのニーズは高いと感じています。特に冬場は道路事情が悪くなるため、客先訪問を行う場合でも、実際の面会時間の 3 ~ 4 倍の時間が移動に費やされており、会議に参加するために 1 ~ 2 時間かけて事務所に戻るといったことも、日常的に行われています。クラウドを使えば車を停めた駐車場から会議に参加できますし、客先での在庫確認も可能です。実際に私ども自身も、社員に Microsoft Surface を持たせています。クラウド活用を自ら実践し、それをお客様にお見せすることで、クラウドのメリットを訴求したいと考えています。
今後の展望
今後のビジネス展開についてお教えください。
独自開発の機能をさらに増やし、SaaS として提供していきたいと考えています。既に人事管理や稟議などを中心としたソリューション開発に着手しており、近い将来にはご提供できると考えています。またパッケージ メーカーとの連携もさらに強化し、パッケージの SaaS 提供も進めていきます。さらに、これらのソリューションやパッケージと Microsoft Office との連携についても、積極的にご提案していきたいと思います。
最後にパートナーの皆さまへのメッセージをお願いします。
中小企業向けのパッケージ販売ビジネスは、これからどんどん先細りしていきます。この業界で生き残っていくには、クラウドを活用したストック ビジネスへの転換が、重要な鍵になります。ストック ビジネスであれば、お客様との結びつきがさらに強くなり、将来のビジネスにもつながりやすくなるからです。私どもも直接お客様の生の声を聞きながら、サービス内容を進化させています。ぜひとも新しい考え方を取り込んで、クラウドへのシフトを進めていただきたいと思います。
ありがとうございました。
事務器販売を手掛ける株式会社渡敬から分離独立する形で、1991 年に設立。受託開発ソフト開発、パッケージ ソフトの販売、導入/運用支援などを、秋田県を中心に展開しています。2012 年 1 月に独自のクラウド サービス「Wapli」の提供を開始。2015 年 2 月からはクラウド基盤に Office 365 と Azure を採用した「Wapli mirai」も提供しています。