株式会社オルターブース (以下、オルターブース) は、Microsoft Azure 上で OSS (オープンソースソフトウェア) を活用してきた実績を評価され、マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー2017 の Open Source on Azure アワードを受賞。また、スタートアップ ベンチャーとして、オリジナルの調味料を作れるサービス「マイソース ファクトリー」が Microsoft Innovation Award 2017 のサムライ インキュベート賞も受賞しました。
なぜ、オルターブースはクラウド インテグレーターだけでなく、スタートアップ ベンチャーとしてマイクロソフトの最新の技術を使った革新的なサービスを開発しているのでしょうか。代表取締役の小島 淳 氏と取締役 Food Tech事業本部 総合プロデューサーの吉田 一直 氏に、お話を伺いました。
写真左より、代表取締役 小島 淳 氏、取締役 Food Tech事業本部 総合プロデューサー 吉田 一直 氏
オルターブースの概要とマイソースファクトリー誕生の理由
―― まず御社の概要についてお教えください。
小島 我々は、クラウド インテグレーターとして九州を中心に活動している一方で、スタートアップとして革新的なサービスをお客様に提供するという 2 つの事業を提供しています。
―― インテグレーターとスタートアップの 2 つの事業を続けている理由は何ですか。
小島 インテグレーターとしてお客様向けのサービスを作っていると、自分のためのサービスも作りたくなってきます。もともと、楽しいことをどんどんやっていこうというのが会社のスローガンなので、自分たちでも楽しいサービスを提供していきたいと考えました。
―― どのようなきっかけでマイソース ファクトリーのアイデアが生まれたかを教えてください。
小島 IT サービスを中心の活動の中で、IT 以外でも面白いことができるのではないかと考えていました。吉田が YK STORES という会社をやっていて、食品などで面白い企画をやっているのを知り、紹介してもらったのがきっかけです。
吉田 2 年前、プリン専用やカキ氷専用の醤油などを作っているころ、初めて会って話しました。
小島 マイソース ファクトリーの原案を彼が持っていて、最初は何のことかさっぱりわからず、単純にオリジナルの調味料を作るだけのサービスかと思っていました。しかし、彼は、最初から IoT を意識していました。マイソース ファクトリーを入口として、味覚データを集め、オリジナルの調味料を作らせることで、各家庭の食卓の味を把握できるのではないかと考えました。
吉田 今は、中食と呼ばれる、家庭で料理せず惣菜を買ってきて皿に盛り付け、調味料をかけるだけのライフ スタイルが増えてきています。醤油が売れずに、ポン酢やドレッシング、焼肉のタレが売れるようになってきて、いわゆる「さしすせそ」は使われなくなってきました。マイソース ファクトリーでオリジナル調合することで、「好みの味覚」という情報が取れるのではないかと考えました。
―― 味覚収集することで、何に役立てようと考えられたのでしょうか。
小島 味覚によって好みの判別を行って、偏った好みの人は食生活が偏っているという仮説を立てました。これによって、健康になるための提案をマイソース ファクトリーから行っていこうと考えています。
マイソース ファクトリー開発の経緯
―― どのように開発していったかについて教えてください。
小島 2016 年の 2 月くらいから始めました。起業して間もないスタートアップでコストもかけられないため、パッケージの EC 基盤を使って 5 月にはサービス提供できるように計画していました。しかし、日本マイクロソフトのイベント「de:code 2016」にメンバー全員が参加して、最新技術に刺激を受けて帰ってきたときに、本当に今の形でいいのか、自分たちの技術を使ってサービスを提供しなくてよいのか、と考えるようになり、自分たちの本当にやりたいものやサービスの本質を見極めようと、最初からやり直すことを決めました。単純な EC プラットフォームではなく、オリジナルの調味料を作って、工場で生産管理して、ラベル表示のための成分分析も行い、配送から決済までを見ていくプラットフォームを一気に作ろうと考え、改良を重ねて、正式にリリースできたのは 2017 年の 3 月ですね。
―― Azure で開発してよかった点などを教えてください。
小島 マイソース ファクトリーは、取得したデータを活用して新しいビジネスにつなげるためのものです。ですから、データを保管して管理する部分が重要な核となると考えていました。核となるデータ ストアを最初から構築する手間を省き、用意されているものをしっかりと使うことができるのは、ドキュメント指向の DocumentDB をフル マネージドで利用できる Azure しかありません。また、オリジナルの調味料を注文できるという面白い取り組みなので、ネット ニュースやテレビで紹介されてバズる可能性が高く、それに耐えられるような構成にする必要がありました。通常の仮想マシンで構築すると非常に大規模になってしまいますが、Azure では、SQL Database や Web Apps などの PaaS を使うことで吸収することができます。将来的にはデータの解析基盤も作っていきたいので、機械学習や BI との連携ができることもよかったですね。最も重要だったのは、リリースするまで 1 つの開発環境で一気に開発できることでした。Microsoft Visual Studio からすべてコントロールできて、スピード感を持って開発できました。
―― de:code 2016 で紹介されてリリースされたばかりの .NET Core などの最新技術を使うことの意味を教えてください。
小島 .NET Core や Azure Container Service という、出たばかりの技術をいち早く事例化すべく動いて、完全なマイクロ サービス基盤を作れたことに意味があると考えています。これにより、インテグレーターとして、マイソース ファクトリーを我々の事例としてアピールすることができます。基本的には、知りうる限りの先端技術を使って開発することにこだわりました。自分たちの興味の集大成としてサービスを作り、技術を結集させて、.NET Core、Azure Container Service、分散技術、シングル ページ アプリケーションなどを使いました。まだドキュメントがない時期から、マイクロソフトのエバンジェリストと一緒に考えながら開発し、技術を吸収していけたのは、大きな意味があると思います。スタートアップとしてマイソース ファクトリーを提供し、インテグレーターとしてマイソース ファクトリーで培われた技術を提供することができます。
マイソース ファクトリーの評判と今後の展開
―― 2017 年 3 月からサービスを開始したマイソース ファクトリーは、どのように評価されていますか。
小島 マイソース ファクトリーという言葉のインパクトと、サービス内容のわかりやすさで、面白いと思ってくれる人が多く、テレビやメディアで取り上げられることも多いので、マーケティング的には非常に成功していますね。複数のネット ニュースで連動して取り上げられたときには、秒間 4,000 アクセスくらいのスパイクが発生し、DB が心配でしたが、柔軟にスケール アウトしてくれてビクともしませんでした。自分たちは何も考慮しなくても、しっかりと安定してくれるのは Azure を選んでよかった点です。会員数も 500 人に増え、コンバージョン率やリピート率は高いほうだと思います。
―― 今後の課題やサービス展開については、どのように考えられているのでしょうか。
小島 味覚データを取り、どのように加工して見せていくかというところは、今でも課題となっています。健康状態を示すだけでなく、こちらから健康になるためのアクション プランを提案できるようにアルゴリズムを考えていかなければなりません。UX にはこだわっていきたいと考えていて、単純に文字で提案されるだけでなく、パラメーターを見るだけで自分に有益な情報を得られるように試行錯誤しているところです。現在は、7 種類の調味料にそれぞれグルテン フリーのものを加えて、14 種類用意しています。今後、ラインナップは拡大しようと考えていますが、今はレコメンドの課題のほうが重要ですね。企画物としてやることは、あるかもしれません。
吉田 そこは、プラットフォームを持っている我々の強みですね。地域の農家さんの野菜を完全受注生産して、それを使ったドレッシングをお客様の味覚に合わせて作ることも、やろうと思えばできます。
―― 利用されているエンド ユーザーからの反響を教えてください。
小島 いろいろな反響があって、特に減塩に対しての反響が大きいですね。減塩調味料はスーパーでも売っているけど、たいていは別の化学調味料が入っています。しかし、我々の調味料は化学調味料を一切使っていません。
吉田 添加物を使わずに、パラメーターで味も好みに整えられるというのは、お客様にとってかなりポイントが高いのではないでしょうか。
―― マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー2017 の Open Source on Azure アワード を受賞しての感想をお聞かせください。
小島 我々は、マイソース ファクトリーも含めて、バックエンドは Azure 上でオープン ソースを使った開発を行っています。インテグレーターとして積極的に啓蒙活動を行い、コミュニティにも拡げていることも含め、評価していただいたと思います。前職のころから、パートナー オブ ザ イヤーにはずっと応募し続けていて、1 回も獲れていなかったので、非常にうれしかったですね。パートナー オブ ザ イヤーで IT 業界に対する影響力を評価される一方、Microsoft Innovation Award 2017 のサムライ インキュベート賞を受賞することでベンチャー/スタートアップとして評価をいただき、どちらもできることが証明できたのは大きな収穫だったと思います。
今後のビジネス展開
―― 今後、オルターブースは、どのようなサービスや事業を行っていくのでしょうか。
小島 今後、マイソース ファクトリーのユーザーを増やしたいという考えもありますが、バックエンドのプラットフォームを解放していくことも重要だと考えています。たとえば、レトルト食品でマイソース ファクトリーの基盤を使ってもらい、工場や流通も含めたプラットフォームを提供する一連のフード コンサルティングも行えると考えています。
吉田 他にも、レトルト カレーの辛さや具材を1 食ずつ選べる、マイレトルトファクトリーというようなものも作っていけるわけです。調味料の 1 つ上のレイヤーの、本当の食事を提供して健康管理するプラットフォームとして提供することもできるし、他の企業のバックエンドとして提供していくこともできるのです。
小島 食品だからといって、食品メーカーがターゲットではなく、ブランド価値を高めるサービスとして使うことができると思います。一方で、マイソース ファクトリーのビジネスはさらに進めて、もっと健康志向になるようにしていきたいと考えています。バイタル データなども収集できるようにして、レベルが高いデータ解析を行ってお客様にレコメンドできるようにしたいですね。マイソース ファクトリーをピボットとして、さまざまな挑戦を行っていきたいと考えています。
―― 本日はありがとうございました。
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自分好みの味覚で、14 種類の調味料をカスタマイズして 1 本から注文できるサービスです。作った調味料を SNS でシェアすることもでき、「世界でひとつだけのマイソース」を公開することも可能。グルテン フリーや減塩の調味料を作ることもできます。
福岡に本社を構え、DevOps を中心としたフル スタック開発サービスやフル マネージドのクラウド サービスを提供する一方、食×医療×Technology で FoodTech 事業も展開しています。2017 年 4 月からは、官民共働型スタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」にサテライト オフィスを構えて Food Tech 事業本部を異動させ、他のスタートアップ企業と連携や情報共有しながら、さらなるサービス展開や挑戦を続けています。