(この記事は 2016 年 5 月 5 日に Office Blogs に投稿された記事 OneNote, ELL and special education at Sammamish High School の翻訳です。最新情報については、翻訳元の記事をご参照ください。)
今回は、Sammamish High School で特別支援学級を受け持つ Rachel Pinter 氏の記事をご紹介します。
学校や学区で 1:1 テクノロジ プログラムを推進するには、何百もの意思決定を下さなくてはなりません。たとえば、生徒にとって最適なデバイスはどれか、YouTube をはじめとする、役立つ (反面、注意散漫になるおそれがある) リソースにはどのようなものがあるか、キーボード操作を教えるべきか、その場合はだれが教えるか (教えたいという希望者はいるか) など、決定事項は多岐にわたります。そして、所属する学区が目指す、学力の向上、大学や就職で必要な能力の育成、前向きで生産的な人生の実現といった、より高次の目標に対して、多額の費用を投じるプロジェクトをいかに連動させていくかという大きな問題もあります。
根幹にあるのは、生徒たちに成功してほしいという願いです。私たちはテクノロジを強化し、より良いツールと経験を提供することで、その願いを実現する可能性が高まると信じています。私たちが優れた対応をするほど、生徒の成功へとつながるのです。ただし、教育上の特別な配慮を要する生徒がいることは見過ごされがちです。プロジェクトのプロセス全体を通じ、深く考えずに安易に片付けられている場合もあります。その結果、外国語として英語を学ぶ生徒 (以下、ELL) や障碍のある生徒など、通常最も注意と配慮を必要とし、ていねいな教育的指導が求められる生徒ほど、逆に配慮が行き届かないという状況が発生します。
ELL や障碍のある生徒は、教室の内外で多くの壁に直面しています。ただでさえ、新しい言語の習得など、さまざまな不利な状況を抱えながら目標達成を目指さなくてはならないのに、適切な使い方がわからなければ、教室内のテクノロジまでが新たな壁になりかねません。当校では 1 年半にわたって個別指導を行ってきた経験から、こうしたスキルを指導するための特別な戦略を見出しました。
想像してみてください。あなたは初めてアメリカで教育を受ける生徒で、さらには英語がわかりません。1 時間目の前に、ノート PC を渡され、授業での学習と宿題にはすべて、”OneNote” なる物を使用すると説明を受けます (言っていることはよくわかりませんが、説明されているのだということは伝わります)。その後、さまざまな授業を受けるものの、どの授業も最後までよく理解できません。母国語がわかる人が周りにおらず、いすを温めに来ただけのような気がしてきます。6 時間目になってやっと、同じ言語を話す人と知り合います。ついに電子メール アカウントにログインし、今日ずっとみんなが話していた OneNote へのリンクにたどりつきました。そこから、慣れないテクノロジの使い方を覚えなくてはならないのです。
教師として、前述のような対応はお粗末としか言いようがなく、こうした扱いを受けた生徒が、この時点において学習に苦手意識を持っても無理はありません。しかしテクノロジは、明確な意図を持って使用すれば、学習がはるかに身近になり、メリットになるのです。
ELL 戦略 1: テクノロジの導入レッスンを行う
テクノロジの活用効果を高める方法として、よく練られた導入レッスンを取り入れることが挙げられます。相手の立場を考えず「とにかく使ってみて」とばかりにノート PC を渡すのは、どんな学習者にとっても効果的なアプローチではありません。生徒がほかにも障壁に直面している場合はなおさらです。そのため、教師が集まって (できれば生徒も一緒に) ノート PC の使い方の指導方法を考えることが、こうしたツールを有効活用するための必須条件になります。
ELL 戦略 2: 再レッスンを行う
導入レッスンを実施するだけでなく、その後の授業でもテクノロジ スキルの習得に時間を割くことが、学習効果を高めるもう 1 つの方法です。テクノロジ関連のスキルは、繰り返し教える必要があります。生徒たちは常にさまざまな新しいことに挑戦するよう求められているため、コピーと貼り付けの簡単な方法や、表に新しい行を追加する方法などを、ときどき忘れてしまうのも十分にうなずけます。繰り返して定着させれば、こうしたスキルの習得は英語の習得と本質的に結び付いているため、相乗効果をもたらします。
下の表は、ある ELL の担当教師が、生徒のスキルの習得状況を追跡するために使っているものです。この教師が力を入れているのは、生徒がサポートを受けてスキルを習得できるだけでなく、一般学級の授業で求められるような、独力でもできる状態まで確実に生徒を伸ばすということです。さらには、学習の成果に関し、教師からのフィードバックを生徒自身が確認できるようにすることで、学力の向上を後押ししています。
ELL 戦略 3: 適応型ソフトウェアを活用する
テクノロジの浸透に伴い、適応型の言語ソフトウェアが増えてきたことで、非常に便利になっています。生徒は言葉の意味を調べるために辞書を持ち歩いたり、モバイル デバイスでひっきりなしに言葉を翻訳したりする必要がなくなりました。
ELL 戦略 4: 課題にテクノロジ スキルを取り入れる
事前のレッスンと再レッスンが重要なのはもちろんですが、日ごろの学習にもテクノロジ スキルを組み込むことができます。当校に Joey Libolt という ELL の教師がいます。Joel はテクノロジの使用に関して、言語スキルを組み合わせた課題を考え出しました。生徒たちは言語ベースの課題に取り組む (だれかにインタビューをして内容を書き留め、要約をまとめる) のですが、それにはテクノロジを利用する必要があります。それができたら、インタビューの成果を発表することで、さらに言語学習が促進されるというわけです。
別の状況を想像してみてください。あなたは ADHD (注意欠陥多動性障碍) の生徒で、学校は事あるごとに頭を悩ませています。集中力に欠け、じっと座っていることができないうえ、すぐに片付けなければならない課題をきちんと管理することもままなりません。教師からノート PC が支給されると聞いて、少しほっとします。少なくとも、プリントをなくすことはなくなるからです。すると突然、ツールは同じであるにもかかわらず、すべての授業が以前とは微妙に変わったのです。一部の教師は OneNote を使い、体系的に指導を行っているようですが、教師によって利用方法が違い、それぞれ理解するのに少し手間取ります。また、単元ごとにグループ化されていたセクションがばらばらになり、ページがタブに変わっています。しかも、どの順番で学習するのか、色や番号で示している教師は半数しかいません。
生徒がフラストレーションを感じるのは目に見えています。ただし、こうした複雑化を避け、障碍のある生徒でも簡単にコンテンツにアクセスして、すぐに学習に取り掛かれるようにする方法があります。
特別学級向け戦略 1: すべてのコースを体系化する
OneNote は今や、当校の教材の一部として、生徒の学習に欠かせないものとなっています。IEP (Individualized Education Program: 米国の個別教育計画) の対象の生徒に対し、OneNote は複数の異なる分野の効果をもたらします。たとえば、秩序立てた行動を目標とする生徒にとって、配られたプリントをなくす頻度が減るため、OneNote は学習内容を整理するのに役立ちます。一方、OneNote は学習生産性の向上に優れた効果を発揮しますが、教師は意識して、構成の一貫性を保つ必要があります。年度始めに時間を取り、体系的な構成を考えましょう。できれば、部門全体で協力して、教材のスタイルを揃えるようにします。また、色分けのルールやページ番号の振り方などを慎重に検討し、生徒に学習する順番がわかるようにしましょう。その他のアイデアとして、セクションの数を抑えたり、授業での OneNote の使用方法を説明する際、明確かつ一貫した言葉を使ったりするのも効果的だと思います。とにかく大切なのは、皆さんのカリキュラムとまったく同様に、OneNote をわかりやすく、アクセスしやすいものにすることです。
特別学級向け戦略 2: 指導助手が OneNote を使用する
OneNote は生徒にとって優れたツールであるだけでなく、指導助手にも非常に役立ちます。真っ先に挙げたいのが、指導助手の仕事に、生徒に代わってノートを取ることが含まれている場合です。作成したノートを共同作業スペースにアップロードしておけば、生徒がそれぞれのペースで、必要に応じてノートをコピーできます。もう 1 つの使い道として、指導助手がカリキュラム全般のコンテンツにアクセスできるようにしておくと効果的です。OneNote のクラス ノートブックを使用すれば、授業に出席できない生徒がいても、学習中のコンテンツを指導助手が確認し、予習用の課題を見つけて、授業の遅れを取り戻せるように生徒を支援するといったことができます。また、コンテンツを詳しく把握していない分野について、その場で確認しながら指導することも可能です。それだけでなく、指導助手が教師に代わり、課題について生徒にすばやくフィードバックできます。
特別学級向け戦略 3: サポート ツールを活用する
OneNote は、障碍のある生徒を支援するためのさまざまなツールも備えています。その 1 つである OneNote 学習ツールは、イマーシブ リーダーとディクテーション機能を備えており、特別学級で一般の生徒向けのカリキュラムを使用する場合に非常に役立ちます。こうした機能を利用すれば、読み書きのような従来の学問的スキルを、別の方法で教えられるためです。ただし、気を付けるべき点もあります。こうしたツールの導入は生徒にとって有益である一方、正しい使い方を指導する時間が必要です。ツールを活用して、生徒の理解と自信を深めるには、生徒がツールの使用方法を学び、練習を積まなくてはなりません。
特別学級向け戦略 4: 授業内容を差別化する
障碍のある生徒を指導する際、OneNote が特に便利だと感じるのが、一般の生徒用と特別学級の生徒用で、教師が教材の構成を簡単に変えられる点です。新しい Class Notebook アドインのようなアドインを利用すると、教師は生徒用の OneNote クラス ノートブックにページを配信できるようになります。これには、生徒の具体的なニーズに応じ、特別に用意した課題を配信する機能も含まれます。たとえば、一部の生徒には穴埋め式の問題を出してヒントを与えるといった支援を行い、それ以外の生徒には穴埋め式ではないヒントなしの問題を出すといったことができます。OneNote を使用すると、このように異なる課題を配布しても、従来のプリントを配る場合とは違って、はるかに周囲から気付かれにくくなります。つまり、自分の課題が他の生徒と違うことを、生徒が気付く可能性が大幅に減ります。ささいなことと思われるかもしれませんが、これにより、実際に人と違う点が目立ちにくくなり、障碍のある生徒が周囲に溶け込みやすくなることがあります。
結局のところ、1:1 テクノロジ プログラムと、教育上の他の変更とに大きな違いはありません。テクノロジの利用に伴う難しさもあるでしょう。しかし、そうした問題を凌ぐほど、テクノロジ ツールは生徒に数えきれない利点をもたらす、というのが私たちの学区の総意です。生徒たちがこうした知識やスキル、経験を身に付けて学校を巣立ち、将来的に努力に見合った成功を収めてくれることが、私たちの最終的な願いなのです。
—Rachel Pinter
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